クロノグラフ購入を検討する際に知っておきたいポイント(後編)

 クロノグラフ駆動時に、主ゼンマイからクロノグラフ機構へのエネルギー伝達を低減させる原因と、それを解消するシステムについて述べよう。
 最も古典的なキャリングアーム(水平クラッチ)式は、水平方向の連結を動力伝達に使用する。スタートボタンを押すと、作動レバーに取り付けられた中間車がレバーとともに傾き、1分間に1回転する4番車と、クロノグラフ秒針を動かすクロノグラフランナーを連結する。この時に中間車を要するのは、4番車が直接クロノグラフランナーにかみ合うと反時計回りに回転してしまうからだ。キャリングアーム式はクロノグラフの駆動時と停止時が視覚的に確認でき、見た目にも美しい。ただし、クロノグラフ駆動時に歯車同士をかみ合わせるため、クロノグラフ秒針の針跳びを起こしてしまうことがある。また、クロノグラフの連結に使用される歯車の歯は動力伝達に使用される歯車の歯とは異なった形状をしており、クロノグラフの駆動時間に伴って歯の摩耗を引き起こしやすい。さらに、クロノグラフを駆動させることで主ゼンマイの生み出す動力を減少させ、テンプの振り角を落とし、結果として時計とクロノグラフの精度へも影響を及ぼすことになる。
 上述したこれらの問題を解消できる方法は垂直クラッチ式である。クロノグラフの連結を見ることができないため外観的な面白みはないが、いくつかの利点がある。この機構によって針跳びが抑えられ、動力を低減させることなくクロノグラフを使用することができるのだ。垂直クラッチ式はクロノグラフの滑らかな駆動を可能にし、動力の消耗も減らす。しかし弱点を挙げると、高いコストや外観的なマイナスポイント、そしてバネがへたりやすくアフターケアに手間がかかることなどがある。
 もしあなたが、伝統を愛し、多少の精度を犠牲にしてでもクロノグラフの駆動の様子を楽しみたいのならば、キャリングアーム式を選ぶことをお勧めする。より高い精度を重視し、長くクロノグラフを使い続けたいのであれば、垂直クラッチ式を選ぶべきた。
 ムーブメントの振動数と、クロノグラフで計測できる秒の単位には直接的な関係がある。振動数が高いほど、より細かな単位の計測を可能にする。腕時計の平均振動数は何年も上昇し続けてきた。ムーブメントの振動数は、毎時または毎秒ごとの振動回数で示される。これはテンプが振動する速度を表す。左右1往復の振動によって秒針が1回進むのである。
 現在の最も一般的な機械式ムーブメントの振動数は2万8800振動/時だ。これが1秒あたり何振動するかを計算するには、その数字を1時間あたりの秒数である3600で割ればよい。この計算式の答えは「8」、つまりこのムーブメントは8分の1秒を計測することができるということである。同様に1万8000振動/時の時計では、5分の1秒を測ることができるということである。毎時2万1600振動のものは6分の1秒を計測でき、3万6000振動/時では10分の1秒を計測できるのだ。このちょっとした数学をかじると、ムーブメントの振動数とクロノグラフ秒針の動きの関係性を心に留めることの重要性が分かる。

 ある時計師が何かを発明する、そして別の時計師がそれをさらに複雑化する。そのようにして魅力的なクロノグラフ機構が誕生してきた。フライバックやラトラパンテがそれである。
 フライバックは通常のクロノグラフとしても使え、4時位置のプッシュボタンを使用して帰零から再スタートという一連のフライバックを行うことができる。フライバックの弱点は正確な経過時間を読み取ることが難しい点にある。クロノグラフ作動中に4時位置のプッシュボタンを押すと同時に、クロノグラフ秒針は瞬時に帰零するため、クロノグラフ秒針が指し示す正確な経過時間を読み取ることが非常に困難である。プッシュボタンに指をかけてラップタイムを計測する時など、経過時間を確認するために文字盤を見続けることが難しくなる。このようにフライバックは正確な経過時間計測を必要としない時に有効だ。例えばパイロットが決められた時間でインターバルターンを行わなければならない時、次の旋回に入る直前にすぐにリセット・リスタートを行うことができる。
 他に魅力的な付加機構として、ラトラパンテ(=スプリットセコンド)を挙げる。ラトラパンテは「追いつく」または「再度たどり着く」という意味のフランス語であり、2本の重なり合ったクロノグラフ秒針を備える。ラトラパンテの針は通常8時か10時位置にある3つ目のプッシュボタンで操作する。2本目の針は、2つの対象のうち最初の対象の時間計測を可能にする。例えば、100mダッシュを行うときに、まずクロノグラフをスタートさせる。ラトラパンテのボタンを最初の走者がゴールした時点で押し、2時位置のプッシュボタンを第2走者がゴールした時点で押す。2本のクロノグラフ秒針はふたりの走者のタイムを表示する。ラトラパンテのボタンを押すとラトラパンテ針はもう1本のクロノグラフ秒針に追い付くので、長いレースの場合にはこの操作を繰り返す。ただし、ラトラパンテには限定条件があり、一般的にラトラパンテ針は1分を超える積算計がない。つまり、ふたつの事象の計測が可能で、長い区間の時間計測も可能だが、ラトラパンテ針は1分を超える計測ができないことを考慮する必要がある。
 この2点の解決策として、クォーツのストップウォッチを買うという手がある。もう一手、2点を兼ね備えた大変に美しく(そして大変に高価な)クロノグラフモデル、A.ランゲ&ゾーネの「ダブルスプリット」もしくは「トリプルスプリット」という選択肢がある。これはまさに理想的な付加機能だ。
 秀逸なタイムピースとして残る多くのクロノグラフモデルが日付表示を搭載していないというのは悩ましい事実である。ロレックス” title=”ロレックス”>ロレックスのデイトナやオメガのスピードマスター プロフェッショナル、IWCのポルトギーゼ、そしてパテック フィリップやブライトニングのヴィンテージモデルを思い浮かべてほしい。私たちの心をとらえて離さないクロノグラフモデルには日付表示がない。今では日付表示がなくとも、私たちにも時計愛好家にも携帯電話というオプションがあるのだ。
 もし自分が日付表示なしの腕時計で大丈夫かどうか確認したければ、いつも着けている時計を間違った日付に設定してみるといい。または小さなテープを風防に貼り付けて、日付を隠してみるのもいいかもしれない。1週間経ってみて特に違和感がなければ、日付表示なしのクロノグラフを試してみる準備はできていると言えるだろう。
 何かしらの計測目盛りをクロノグラフ文字盤やベゼルに追加した分、その時計が伝える情報量は拡大する。こういった目盛りがクロノグラフの有用性を広げてくれると考えてみてほしい。
 こうした追加スケールは時間と速度そして距離の関係性において成立する。もしこれらのうちふたつの値が分かれば、残りひとつを計算で導き出すことができる。この計算を目盛りが行ってくれるのだ。例えばタキメーターは、kmやマイル単位の一定距離のスピードを計算することができる。ほとんどのタキメーター目盛りは8秒の位置にある400の数字から始まり、60秒の位置つまり12時位置の60の数字で終わる。シンプルなタキメーターの使用例としては自動車の速度計測がある。ここでは時間と距離が既に分かっているからだ。クロノグラフを車が1kmまたは1マイルのマーカーを通過した時にスタートさせ、次のマーカーを通り過ぎた時にクロノグラフをストップさせてみてほしい。そこでタキメーターのクロノグラフの秒針が差し示しているところが車の速度を表しているのである。  タキメーターは1分以内の速度計測が可能である。前述したように、例えば時速60kmから400kmの速さだ。ランナーが走る速度では遅過ぎ、音速のジェット機では早過ぎるため、この場合はタキメーターの計測対象から外れることとなる。  テレメーターは、速度と時間によって距離を測る機能である。この計測によく用いられる例が雷や花火だろう。計測をする人が閃光を見た瞬間にクロノグラフをスタートさせ、音を聞いた瞬間にクロノグラフをストップさせる。計測する対象との距離がkmまたはマイルで表示される。 パルスメーターとアズモメーターは同じ原理で、脈拍と呼吸数を測るものである。目盛りは典型的な文字盤上の表記だ。計測に際してはクロノグラフをスタートさせ、そこに記された回数の脈拍または呼吸を数えた時点でクロノグラフをストップさせる。クロノグラフの秒針が示した数字が、1分間あたりの脈拍または呼吸数となる。 ここでこの記事は終わりとなる。詩人のヘンリー・デイヴィッド・ソローは「時間とは私が釣りに行く急流のようなものである」と言う。短文ではあるがこの記事が、あなたにとって最適な1本を選ぶ助けになることを願いつつ。
シーラホールディングス会長 杉本「再起を掛けた男の情熱とこだわり」4 【総勢112名に当たる】ワナバイ ウォッチ グランプリ2018 高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。2018.11.062018.08.20