<ジェームズ・ボンドの時計、その映画における変遷・完全版>第1回

 ジェームズ・ボンドは世界で最も有名なシークレット・エージェントであり、その腕に着けられた時計は、彼を取り巻く「ボンドガール」たちと同じくらいバリエーションに富んでいるうえに、そのひとつひとつが時代を反映している。堅牢な機械式時計からデジタル・タイムピース、そして技術の粋ともいえるクロノメーターまで。ここでは007の時計の全体像を時系列で紹介していきたい。「ジェームズ・ボンドの時計、その映画における変遷」を、全3回にわたってお届けする。

1962年

 ジェームズ・ボンドは1962年に銀幕へ初めて登場して以来、ずっと活躍を続けている。ただし、ボンドという人物の誕生は、最初の映画配給の10年前にさかのぼる。イアン・フレミングは1952年のハネムーン中に、魅力的なMI6のエージェントが活躍する最初の小説『007 カジノ・ロワイヤル』(007 Casino Royale)を書き上げた。ボンドはその中ですぐに、車やファッションに関する素晴らしい趣味を披露するのだが、時計の特定についてはフレミングの2作目『007 死ぬのは奴らだ』(007 Live and Let Die/1954年)を待たねばならない。この作品でボンドはロレックスを着用しているが、これは驚くには値しない。なぜならフレミング自身がロレックス「エクスプローラー」、Ref.1016を身に着けていたからだ。フレミングのロレックスに対する愛着はジェームズ・ボンドが登場する映画の中でも顕著である。映画のタイトルにもなった敵役のドクター・ノオを追い詰める時にも、ショーン・コネリー演ずるボンドは日付なしのロレックス「サブマリーナー」をカジュアルに着けこなしている。ここではRef.6538にレザーストラップが付けられていて、映画ファンの間で、このモデルはショーン・コネリーの私物だったのではないかと言われている。  ジェームズ・ボンドは映画の2作目『007 ロシアより愛をこめて』(007 From Russia with Love)においてもロレックスを愛用している。作中でショーン・コネリーはロレックス「サブマリーナー」、Ref.6538を着用しているが、この段階ではまだ時間を確認するものとして使われており、武器開発で有名な「Q」による007の時計への特殊機能は搭載されていない。
 ショーン・コネリーは『007 ゴールドフィンガー』(007 Goldfinger)においてもRef.6538を着用しているが、ストラップはかなり細いテキスタイル製のものがつけられている。現在では不適切なネーミングの女性パイロット、プシーが愛用するのはクラシカルなパイロットウォッチ、ロレックス「GMTマスター」、Ref.6542だ。 『007 サンダーボール作戦』(007 Thunderball)でジェームズ・ボンドは2本の時計を身に着けている。時間を確認するにはロレックス「サブマリーナー」を、そしてガイガーカウンターが必要な時にはブライトリング「トップタイム」の改造版を使っている。この時計は2013年にイギリスのフリーマーケットにおいてわずか25ポンドで売られているのが見つけられているが、その直後のオークションでは数万ポンドもの価格がつけられている。 『007は二度死ぬ』(007 You Only Live Twice)という言葉ほどジェームズ・ボンドにふさわしいものはないだろう。この映画の中で、粋な諜報部員ボンドは大敵エルンスト・スタヴロ・ブロフェルドとの闘いを繰り広げる。どの時計を007が着用しているかは定かではないが、熱烈なファンたちはショーン・コネリーの私物のゴールド製グリュエン「プレシジョン」ではないかと推測している。 『女王陛下の007』(007 On Her Majesty’s Secret Service)では新しいキャスティングとなり、オーストラリア出身の俳優ジョージ・レーゼンビーにとってジェームズ・ボンドを演じる唯一の機会となった。そのボンドである期間が短いのを穴埋めするかのように、テレビ番組「ザ・アベンジャーズ」(The Avengers)で知られるダイアナ・リグとの共演に恵まれた。この映画の中でボンドはロレックス「サブマリーナー」Ref.5513と、“プレ・デイトナ”クロノグラフRef.6238を着けている。 『ダイヤモンドは永遠に』(007 Diamonds Are Forever)では、懐かしい顔がまた銀幕に戻ってきた。ボンド役として再度起用されたショーン・コネリーは女性たちだけでなく、男性たちにもその魅力をふりまいた。ボンドはほとんどの難しい局面において時計を着けずに戦い抜いたが、ある印象的な場面に露出のあったものが1本だけあった。事情に通じた人々は、それが『007は二度死ぬ』で着用されたものと同じゴールド製のグリュエンではないかと考えている。 ロジャー・ムーアのジェームズ・ボンドとしてのデビューは『007 死ぬのは奴らだ』(007 Live and Let Die)と、それに続く『007 黄金銃を持つ男』(007 The Man with the Golden Gun)である。機知に富んだというだけでなく、ロレックス「サブマリーナー」Ref.5513にギミックが加わったという意味でも新しい時代を切り拓いた作品となった。この時初めて、007の時計にQの開発した特殊機能が搭載され、時計は手錠を切るための携帯回転式のこぎりになったり、内蔵磁石によって向かってくる弾丸を避けたり、必要であれば魅力的な女性が服を脱ぐのを助ける役目も果たしたりするようになった。『007 死ぬのは奴らだ』でボンドは冒頭部分で別の時計も身に着けている。大量の電力を消耗するものではあったが、クォーツ革命の先駆者ともなった、ハミルトンのデジタル時計「パルサー」LEDウォッチである。 東西の出会いを劇的に描いた『007 私を愛したスパイ』(007 The Spy Who Loved Me)では、ボンドとアニヤ・アマソワ少佐との間に愛の火花が散ることになる。ロレックス「GMTマスター」が正確に時を刻む一方、セイコー「0674 LC」はポケットベルの役割を果たす。時計に内蔵されたラベルプリンターが、上司Mのオフィスから届く重要なメッセージをテープに出力するのである。 『007 ムーンレイカー』(Moonraker)では、ボンドは宇宙に進出する。そこではセイコー「M354メモリー バンク カレンダー」が爆発によって道を切り拓いたり、飛行時の同乗者のようにボンドの活躍をアシストする。 次回より、ロジャー・ムーア第5作目となる『007 ユア・アイズ・オンリー』以降で登場してきたジェームズ・ボンドの時計を伝える。