この世ならぬ美味のクリエイター – 命への敬意と果てなき雄心

松濤に静かに佇む、紹介制の一軒家レストラン。 狩猟免許を持つ料理人が手掛ける肉尽くしのコース、 その背景とフィロソフィーに迫る。 目の前で注がれる澄んだ蝦夷鹿のコンソメスープから始まり、ピュアでなめらかなブーダンノワール、自社で製造するシャルキュトリの盛り合わせなどが続く。メインディッシュでは「2歳牡鹿のヒレと1歳牝鹿の心臓」といった性別や月齢、部位の異なる蝦夷鹿や短角牛、放牧豚などが2種以上登場し、食べ比べを堪能できる。「皿を通して、もう一歩踏み込んだ食体験をしていただきたい」と語るのは、エレゾ社の創業者であり、料理人でもある佐々木章太氏。 始まりは2004年に遡る。佐々木氏は、北海道の帯広にある実家の店を手伝うために帰郷。その時、ハンターが持ってきた蝦夷鹿に感銘を受けたことを機に、エレゾ社を立ち上げる。十勝・豊頃町にラボラトリーを建設し、肉の狩猟、流通、加工をすべて自社で行う体制を整えていく。社員全員が料理人兼ハンターであり“食肉料理人集団”の異名をとることに。 創業時に、佐々木氏が書いた1枚の紙がある。そこには、自社一貫生産管理体制の詳細が書かれていて、各部門の役割からジビエの種類に至るまで、まるで現在を説明したものにもとれ、およそ10年前の目標を着実に具現化してきたことがよく分かる。すべては、命ある肉への敬意を信条に、本質を追求した結果。そこに、料理人としての技術が加わり、語るべき背景を持つ皿が生まれた。「エレゾハウス」は“命ある状態から、皿の上までのすべてを担う”という独自のスタイルを表現する場でもある。 豊頃町の高台に立ち、大津港を見渡しながら佐々木シェフは語る。淡々と物静かに、それでいて強い意志が伝わる口調で「食をベースに過ごせるオーベルジュを、この場所につくります」と。 これからの10年も着実に思い描く夢を実現していくだろう。それは、日本の食肉文化においても大きな意味を持ち、掛け替えのない役割を果たしていく。