本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/『独自のブランディングで勝負するフォッシル』前編

テクノロジーの分野で、知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、腕に着ける装置「ウェアラブルデバイス」を語る。今回はファッション性を取り入れたブランディングでスマートウォッチの分野にも積極的に挑戦するフォッシルについてだ。 腕時計業界との接点といえば、パソコンやその周辺機器、デジタルカメラなどがきっかけでカシオやセイコーエプソンとほんの少しばかりお付き合いがあっただけで、ほとんど縁がなかった。そのため僕は、つい最近までフォッシルという会社のことをよく知らなかった。 この会社が15ものブランド(日本取り扱いブランドは12)の時計を生産し、世界トップクラスの売り上げを誇る腕時計メーカーであると知ったのは、同社がミスフィットというウェアラブルデバイスのベンチャー企業を2015年11月に買収したからだ。 この買収判断が、同年の4月に発売されたApple Watchに後押しされたものである可能性は高い。 翌16年1月に行われた最新テクノロジー製品の展示会、International CES(Consumer Electronics Show)2016で同社の幹部に取材すると、「独自のスマートウォッチ開発を急いだものの、コンピューターソフトウェアやハードウェアのエンジニアリングリソースがフォッシル社内にはなかった。そのため、買収しやすい規模でファッション業界にも近いブランドであったミスフィットを傘下に収めることにした。ミスフィットを中心に、その後のスマートウォッチ、ウェアラブルデバイスを開発していく計画だ」と話してくれた。 当時、腕時計メーカーとして収益ベースでコンスタントにトップ3に入っていた(アップル調べ)フォッシルが、Apple Watchが発売されたからといって、それほど買収を急ぐ必要があるのか? という疑問を感じたものだ。Apple Watchはその年の年末商戦前までに、すでに700万本を売ったらしい……といった噂は出ていたものの、それまでに登場していたスマートウォッチはいずれも、売れる気配すらなかった頃のことだ。 いくらフィットビットなどのウェアラブルデバイスメーカーが伸びている時とはいえ、時期尚早ではないか? という感想を持ったことを記憶している。しかし、彼らは急いで新しいビジネスモデルを確立させる必要に迫られていた。 彼らが2億6000万USドルでミスフィットを買収するという判断を下し、ウェアラブルデバイスやスマートウォッチ市場を開拓する方向へと舵を切った理由は、既存ビジネスの落ち込みが急速に進んだためだ。2015年第3四半期の売り上げは前年比で14%下落し、営業F利益も−44.6%。 彼らの主戦場は低価格——2万円から4万円程度——でありながらファッショナブルという領域だが、この価格帯はApple Watchの主力モデルと競合する価格帯だ。以前から買収の交渉は行われていたのだろうが、前後にミスフィットを取材していた時の印象からすると、かなり急な決断だったのだと想像する。 そして彼らはファッションとスマートウォッチの融合を進めるため、「Fossil Q」というブランドを立ち上げたが、Android Wear(現在のWear OS)採用のディスプレイ付きスマートウォッチも、アクティビティトラッカーを内蔵するアナログ時計とのハイブリッド製品も販売は振るわず、悪化していた業績はさらに落ちていった。