この世ならぬ美味のクリエイター – 潔くも、奥深い思想が宿る御椀

今春、新富町に静かに誕生した日本料理店「久丹(くたん)」。積み重ねた伝統技術に独自の遊び心を重ねた料理で、早くも訪れた食通たちの心を魅了している。 風情漂う大人の街、新富町。銀座からすぐのエリアに、ここ数年、名店出身の料理人たちが、次々と店を構えている。鶴をモチーフにした控えめな看板に店名が刻まれた「久丹」もそのひとつ。『ミシュランガイド東京』の刊行以来、3つ星を維持し続けている元麻布の「かんだ」で、およそ10年間じっくりと研鑽を積んだ店主・中島功太郎氏が、40歳を迎える今年、念願の独立を果たした。 扉を開けると、ワイングラスが優美に収納された棚と重厚感ある秋田杉の椅子が置かれたウェイティングスペースが広がる。中島氏曰く「グランメゾンに匹敵する価格設定の日本料理店ならば、同等の居心地のよさを用意しなくてはいけません」。この空間でシャンパンを飲みつつ、連れを待つのもいいだろう。「日本料理は、やはり椀刺」と中島氏。刺身は、集中力が散漫になるからと敢えて盛り合わせにせず、魚の個性を引き立てる仕立てで数皿に分けて提供するのがこだわり。御椀は、提供する直前に、1~2時間水出ししておいた真昆布に、削り立ての本枯節を合わせて出汁を仕上げる。蓋を開ければ上品な香りが立ち上り、口にすればじんわりと身体に染み入り、心穏やかにさせてくれる。「存分に楽しんでいただきたい」と、愛用する器は一般的なそれよりも少々大きい。 自身の思いをきちんと据えながらも、非常に正統派な日本料理という印象を受ける。ところが、そんな流れはいい意味で裏切られ、コース後半へと続く。「京都ではなく、東京のドラマチックな日本料理」が展開されていくので、楽しみに訪れていただきたい。料理において最も大切なことは「思想」だと語る。それは、料理に向かう姿勢であり、食べ手への思いやりともいえる。 ちなみに「久丹」とは中島氏による造語。「久」には永遠、「丹」には赤、そして真心の意味がある。自身の名を冠していない理由は、誰が継いでも何代も愛され続ける店になるようにという思いが込められているから。