過去100年以上の中から選んだカルティエの3つの特別なタンク

多くの人々がカルティエのタンクを、純粋にドレスウォッチとして理想的なものであると言うであろう。私にとっては、アイコニックなモデルとして琴線に触れる存在である。私が若かった頃、この時計の四角いデザインに恋をして以来、その後も私を時計好きたらしめてきた時計である。その四角形のデザインは長く変わることなく存在し続けているが、外観的には何度も変更が加えられている。ここでは過去100年以上にわたって、手首を優美に飾ってきたカルティエのタンクより、特徴のある3点を紹介していきたい。  
 2017年に行われた、ロレックス コスモグラフ デイトナ“ポール・ニューマン”が破格で取り扱われたフィリップスのニューヨークオークション「ウイニング・アイコンズ」を思い出してほしい。「ロット31」に興味深い点があったことにお気づきであったろう。その1931年製「タンク ア ギシェ」は13万1250USドルで落札されているが、全くオーソドックスではないこのデザインは、すでにその3年前の1928年から始まっていたのである。アラビア数字での時刻表示への興味が高まっていた年に作られたジャンピングアワーの時計である。A.ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルクなど、モダンなジャンピングアワーやジャンピングミニッツとは異なりギシェ(小窓)付きタンクはいわゆる文字盤を備えていない。どちらかというと、小さな窓(ギシェ)が時と分を表示するために開けられた、シンプルな平たい金属の板である。カルティエはこのスタイルの時計の、窓やリュウズの位置が異なるさまざまなバージョンを展開してきた。リュウズ位置が12時または3時位置の場合もあるし、分の開口部が12時または6時位置のものもある。これらの時計は非常に希少なものであり、また私はいつか、男性的な要素を持ったこのタンクの現代的解釈に出合いたいと願う。  車や航空関係ではこの角度でデザインされた腕時計は比較的普及しているが、同じデザインのものをドレスウォッチで見かけるのは珍しいことである。もともとこのデザインの背景にあるのは手を車や飛行機のハンドルや操縦桿に置いているときの、より良い視認性の確保である。個人的にはこの斜めに引っ張るようにデザインされた時計を、カクテルパーティーやディナーで着用する価値については判断をしかねるが、1936年に発表された当時には特別な意味合いがあったであろう。その部分を脇において考えたとしても、これは非常にハンサムなタイムピースでありタンクという概念を別の意味で解釈したものである。文字盤の配置は6時と12時をコーナーに配し、アヴァンギャルドな「タンク ア ギシェ」に端を発する、新たな起点となるのが「タンク アシメトリック」である。  皆さんの中には、スイスの時計業界がクォーツ危機に苦しんでいた1970年代後半に発表されたこの時計を覚えている人もいるだろう。「タンク マスト ドゥ カルティエ」のコレクションは、高級消費財の業界において、人々の声が非常に重要な時期に発表された。世界的ラグジュアリーメゾンのひとつであるカルティエは、その時期をそれまでにないクォーツウォッチを発表する好機として捉えた。そしてそれはすぐに成功を収め、世界中で数字のないラッカー仕上げのカラフルな仕様によって認知されるところとなったのである。「タンク マスト ドゥ カルティエ」には、手巻きとクォーツウォッチが存在し、ブランド自体を活性化させ、自らをさらに幅広く熱狂的な顧客層へと導いたのであった。