リーブル(白金) / 食による創造と最高峰の在り方

10年近いフランスでの経験を経て、独立を果たした田熊一衛氏。パリと東京のふたつの都市を知る料理人が、独自の感性とスタイルで、新たな食文化を発信していく。 々の緑が揺れる白金の閑静な通りに誕生した一軒。ガラスの扉から奥へと店舗が広がるのだが、街を歩く人々が興味津々に足を止めて覗いていく。表のディスプレイにはスイーツが並んでいるので、パティスリーだと認識され、それも正解だが、夜にはおまかせのコースでフランス料理を提供するレストランとなる。 店頭から続く壮観なカウンターは、赤灰色のイタリア産大理石ロッソオロビコ。幅およそ1mで、オープンキッチンとフラットな状態でつながっており、まるで立派なダイニングテーブルをシェフとゲストが分かち合うような構図に。椅子に座れば、シェフの自宅に招かれたような錯覚に浸れ、仰々しさは一切ない。オリジナルの器の数々やカトラリーの色が料理ごとに変化していく様に至るまでこだわりが徹底されている。この空間で料理を生み出しているのが、シェフ・田熊一衛氏。料理においても、それを取り巻くデザインに通じる視覚での驚きを備えている。ビジュアルで息を呑み、口に運べば思わず頷いてしまう味わいの説得力がある。 遡ることおよそ10年前、田熊氏はドミニク・ブシェ氏に誘われて渡仏を決意した。「いつも親身に気にかけてくれました。同じ厨房で働いたのはわずか1年ほどでしたが、その後三つ星『ベルナール・ロワゾー』のシェフとして働くことができたのもドミニクのおかげ。その当時共に働いた優秀なパティシエに、ショコラや飴細工を学んだことは現在につながっています」。 帰国後、「まずはクリエーションの自由度の高いパティスリーから」スタートし、1週間後に、追ってディナー営業を開始した。活躍は店に留まらず、グッチやカルティエなどからのオファーも多い。さらに、今冬にはグランドメゾン級のレストランの開業も予定している。なんとも軽やかなテンポ。すでに最高峰の経験値を持ちながら、これから先の伸び代にこれほど期待高まる料理人は稀だ。その一方、「日本の料理人の地位を上げたい」という、パリと東京を冷静に比べる目を持つ彼ならではの言葉も印象に残った。